福岡地方裁判所 平成2年(行ウ)12号 判決
原告
西野雅三(X)
(ほか一六名)
右原告一七名訴訟代理人弁護士
池永満
同
名和田茂生
同
稲村鈴代
同
久保井摂
同
石渡一史
同
八尋光秀
被告
福岡市長 桑原敬一(Y1)
同
福岡市(Y2)
右代表者市長
桑原敬一
右被告両名訴訟代理人弁護士
辻井治
被告
株式会社パスコ(Y3)
右代表者代表取締役
中島清治
右訴訟代理人弁護士
藤原政治
同
黒木和彰
同
大川正二郎
被告
前田建設工業株式会社(Y4)
右代表者代表取締役
前田顯治
右訴訟代理人弁護士
堤克彦
同
古江賢
事実及び理由
第三 争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(本件許可処分取消訴訟の原告適格と訴えの利益の有無)及び争点2(被告パスコ及び同前田建設に対する本件開発工事差止請求の訴えの利益の有無)について
〔証拠略〕によれば、以下の事実を認めることができる。
1 被告パスコは、昭和六二年八月三一日被告福岡市長に対し、福岡市都市計画法施行細則二条に基づき開発計画事前審査願(以下「事前審査願」という。)を提出した。事前審査願には、開発計画の概要として福岡市西区愛宕三丁目四二七八―四他九筆、開発予定区域の面積一一九五〇・〇四平方メートルと記載され、右四二七八―四他九筆は、事前審査願添付の別紙では、「愛宕三丁目四二七八―四(所有者被告パスコ)、四二八三―七(所有者同)、同四丁目四二八一―一(所有者同)、三(所有者大蔵省)、一三(所有者豊田英雄、以下同)一四及び一九、四二八〇―七四、七五及び八四」となっていた。
2 被告パスコは、事前審査の段階で開発予定区域の進入路用地として予定していた右国有地(四二八一―三)の払下げを受けることができず、また、開発予定区域の隣接地の所有者から眺望を妨げるようなマンションの建設には反対する旨の抗議を受けたことなどから、国有地及び抗議を受けた一部の区域を開発予定区域から除外し、本件開発区域に建築予定の建物の建築に必要な面積に縮小して本申請をすることとし、昭和六三年一〇月一九日被告福岡市長に対し、開発区域に含まれる区域の名称「福岡市西区愛宕三丁目四二七八―四他別紙」開発区域の面積「九七一六・三四平方メートル」、予定建築物の用途「集合住宅(分譲)住居地域一棟一五一戸」、工事施工者住所氏名「福岡市博多区博多駅東二丁目一四番一号前田建設工業(株)福岡支店」等として開発行為許可申請をし、同月二五日、本件許可処分がされた。
右開発区域に含まれる地番は、「愛宕三丁目四二七八―四(一部分)、四二八三―七、四二八〇―七四、七五、八四、八七(一部分)及び八九、四二八二―一(一部分)、一三(一部分)、一四及び一九」であって、当初の開発区域から西側景勝台寄りの細長い土地部分等が除かれて本申請がされたものであった。
被告パスコは、開発区域に含まれない福岡市西区愛宕四丁目四二八二番一、同所四二八二番一三の土地の一部を開発工事のための伐木、土砂の搬出路や現場事務所用地として使用していたが、工事の完了と共に右開発区域外の土地について復旧の工事をした。
3 被告パスコは、平成三年四月九日、被告福岡市長に対し、法三六条一項の規定に基づき「工事完了年月日平成三年四月三日、工事を完了した開発区域福岡市西区愛宕三丁目四二七八―六〇、四二八三―七、同四丁目四二八〇―九九、一〇〇、一〇一及び一〇二、四二八二番二〇及び二二」との記載のある工事完了届出書を提出し、被告福岡市長は、同年六月一二日検査の結果、法二九条の規定による開発許可の内容に適合しているとして開発行為に関する工事の検査済証を発行した。
なお、本件開発区域として許可された区域と開発工事に関する工事の検査済証に記載されている区域と地番が一致しないのは、本件開発許可後に右開発区域につき分筆、合筆等がされたものであり、本件開発区域と右開発行為に関する工事の検査済証に記載された区域は一致している。
右に認定した事実によれば、開発工事は、平成三年六月一二日に完了していることが認められるので、本件口頭弁論終結時の平成五年一一月九日の時点においては、開発行為の許可の本来の効果は既に消滅していることになるから、原告らの被告福岡市長に対する本件許可処分の取消しを求める訴えは、原告らの原告適格の有無の点を判断するまでもなく、その訴えの利益を欠くに至ったというべきである(最判平成五年九月一〇日、裁判所時報一一〇七号参照)。
また、同様に開発工事の終了、完成により、原告らの被告パスコ、同前田建設に対する開発工事の差止めを求める訴えの利益も失われたということができる。
以上のとおりであって、この認定、判断を左右する証拠はないから、原告らの被告福岡市長に対する本件許可処分の取消しを求める訴え及び被告パスコ、同前田建設に対する開発工事の差止めを求める訴えは、いずれも却下するのが相当である。
二 争点3(本件許可処分の違法性の有無)、同4(損害賠償の請求)について
原告らは、違法な本件開発許可処分とこれに伴う開発工事によって、居住環境の破壊、生命・身体・財産の安全性の侵害、道路交通の安全を享受する利益の侵害、騒音・振動・粉塵による被害等を被り、精神的苦痛を受けたとして、被告福岡市、同パスコ、同前田建設に対し、慰藉料各一〇〇万円の損害賠償の支払を求めている。
1 そこで、まず開発工事の経過についてみるに、右一掲記の各証拠のほか、〔証拠略〕を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) 政令指定都市では、都市計画法上の開発許可行政事務に関し、その円滑かつ迅速な事務処理を行うために事前審査の制度が設けられており、被告福岡市でも福岡市都市計画法施行細則第二条に基づき、開発許可事務の事前審査の手続が行われている。同手続は、被告福岡市が開発行為の関係者からその相談を受け、事前審査願が提出されると、関係部局による事前審査会という連絡会議が行われ、その後現地の確認がされ、開発行為の関係者は、各公共施設の担当者らと法三二条の同意協議を行い、その後に本申請がされるものであり、事前の指導等によって瑕疵のある申請を避けさせ、円滑かつ迅速な審査に資することを目的としてされるものである。
開発行為者から被告福岡市に対し、本申請が出されると、担当者は記載事項の確認、図面が添付されているか等を審査し、受付けを行い、法の定める要件を満たしているか否かを確認し、行政庁である被告福岡市長は、当該開発行為が法三二条の要件に適合し、手続違反がない場合には、開発許可をしなければならないこととされている。
(二) 被告パスコは、昭和六二年五月ころ、訴外内山ビル株式会社から本件開発予定区域のうち四二八一番一、四二七八番四の各土地を購入し、開発して高層ビルを建築する計画を立てたが、右各土地には公道に至る接続道路がなかったため、その開設のために近隣地の買収等を検討し、開発予定区域西側の景勝台側からの接続を計画して土地の買収交渉にあたった。しかし、買収を予定していた土地につき既に同種の業者が買収をしてしまっていた経緯等もあって、景勝台側の道路を本件開発区域に繋げることは不可能となり、開発のためには本件道路に面する区域を買収して接続するほかはないことになった。
被告パスコは、被告福岡市との間で本件土地等の開発行為のための事前相談を行い、昭和六二年八月三一日付けで、被告福岡市長に対し、事前審査願(乙第七号証の一)を提出し、記載事項、書類等の確認を受けた。被告福岡市の宅地指導課は、同年九月一一日事前審査会を開催し、関係する一二課の担当者が出席し、事業者から開発計画の基本的な概要につき説明を受け、関係部局は被告会社に対し質疑をすると同時に指示、指導を行った。その際、土木局道路維持課からは、都市計画道路についての交通計画課との打合せ等が、教育委員会埋蔵文化財課からは、現地調査の必要や後日の試掘等が、都市整備局公園計画課からは、自然の樹木の保存等が、都市整備局緑地課からは、公園の位置や五メートル以上の立木の調査等が、それぞれ意見指導として出された。
(三) 開発区域のある地域は、通称愛宕山の東端に位置し、北側に博多湾を望み、背後の背振山地に源流をもつ室見川がその東側を流れている。愛宕山は、この室見川の攻撃部に相当する小丘陵状の台地であり、裾部は、河川氾濫物を薄く堆積した低地平野部にあたる。開発区域は、北西側の小沢部を除いて土被り厚は殆ど無く、砂岩、頁岩等を基盤とし、岩盤区分は軟岩から中硬岩程度に対比され、北側に露出する斜面では、地質構造的に安定な所謂受け盤構造を成している。
被告パスコが取得した後、本申請をした開発区域と周囲の原告らの居宅、本件道路等との位置関係は、別紙三、四図面(一)、(二)のとおりであり、本件開発区域の北西側の愛宕三丁目には、ほぼ開発区域と同程度の標高地域に開発された住宅地である、いわゆる景勝台が北に向かって博多湾を望む形で連なり、開発区域の北側には標高差約二〇メートルの低地に旧来からの住宅地が存在する。開発区域付近は、住居地域で二〇メートル高度地区の規制がされている。
開発工事計画は、右既存住宅地の南側に存在する標高約三九・六メートルの自然林で覆われた小高い山の自然林を伐採し、山を切り崩し、土砂を搬出して、標高約二〇メートルの平坦な土地を造成し、本件道路を開発区域との被接続道路とし、さらに基幹道路に繋げるというものであり、図面(一)のとおり本件道路の北側と南側は、それぞれ国道等の幹線道路に接続している。
(四) 被告福岡市は、昭和六二年九月一六日担当部課共通の現地審査を行い、市道である本件道路に一部四メートル未満の部分のあることを確認した。その後、被告パスコは、法三二条の同意協議を関係部局と行ったが、事前審査段階で開発区域として申請されていた土地のうち、四二八一番三は大蔵省の所有名義であり、当初被告パスコは、払下げを受けることを前提に話を進めていたが、大蔵省との交渉は不調に終わった。そこで、被告パスコは、それに代わる隣接地の取得を計画し、昭和六三年六月六日、隣接地である四二八〇番一六、同番八七を訴外中村工業株式会社から買い受けて取得し、これに伴って開発地域内の道路に勾配をつけて本件道路に接続させ、開発区域を縮小させることとし、これらの経過を被告福岡市に伝えるとともに、開発計画の一部変更の手続をした。
なお、被告パスコから開発計画の作成の依頼を受けた訴外新日本開発株式会社は、昭和六二年一〇月に本件土地等の地質調査をし、開発計画の作成を訴外株式会社ブレインズに下請けに出し、同社は、被告福岡市都市整備局緑地課の意見等もあって本件土地等を調査し、高さ約五メートル以上の樹木等が相当数あることを確認したが、本件道路の幅員については、実際に測量をすることはなく、単に道路台帳で幅員が四メートル以上であることを確認したのみであった。
(五) 被告パスコは、被告福岡市に対し、右開発地域の変更に基づく事前審査段階での書類等を提出したが、事前審査の段階から変更になった開発計画の主要な点は、大蔵省の土地の取得ができなかったために開発区域内の取付道路の位置が変更になり、そのため、更に公園の取付位置が変更になったこと、開発区域の面積が一ヘクタール未満になったことなどであった。なお、被告福岡市は、本件道路のうち幅員が四メートル未満であった道路部分(図面(一)の訴外梅崎順平宅横付近)の拡幅を予定し、土地所有者梅崎との間で昭和六三年八月三一日付けの土地売買契約を締結してこれを取得していた。
被告パスコは、同年一〇月一九日、被告前田建設との間で開発工事の請負契約を締結するとともに、被告福岡市長に対し、本件開発行為許可の本申請を行い、同被告は、開発区域が一ヘクタール以下であることを前提に開発行為が法三三条ないし四号、七号、一二号及び一三号等の基準に適合するか否かの審査をし、手続上も問題がないとして、同月二五日本件許可処分をした。
(六) 被告パスコは、開発工事開始に先立ち、昭和六三年一二月一八日第一回目の、平成元年一月二二日第二回目の近隣住民に対する工事説明会を開いた。被告パスコ及び同前田建設が右の説明会のために用意した「仮称シティパル愛宕説明資料」(甲第二号証)では、作業方法として「土地工事に先立ち、現場に植生する樹木を伐採、処分し、伐採材は処理場へ運搬して焼却処分する。伐採の手順は、工事用道路部分を先行し、順次土取場を拡幅するように伐採を広げて行く。本件開発区域と他の地域の境界部分の立木は、仮土留工事や防音用として残しながら最終段階で伐採を行う。工事用道路を拡幅延長しながら、標高二〇メートルの基盤まで土を切り下げ、土砂は場外へ搬出する。」旨、開発工事区域に存在する崖面対策として、「仮設に金網張り防護工事を施し、その後崖面防護工事を施し、その後打壁構造物を施工する。」(右崖面の下には、原告道原、同坂口及び同白川らの居宅が存在する。)旨、騒音・振動対策として、「造成掘削工事に使用する機械は、普通土・軟岩についてはバックホーン及びブルドーザーによるリッピングで行い、中硬岩についてはブレーカー及びブルドーザーによるリッピングで行うこと、転岩等の大きいのは、一度敷地外西側に設けた岩石仮置場に運搬し小割を行い、場内での岩石打撃回数及び工期の短縮に努めること、造成地の北側には防護のための落石防止柵及び防音シート柵を設置すること」、また、防災対策として「落石防護対策として北側部分にH鋼建込と鋼矢板を組合せた防護柵を設け北側部分の既存崖面については仮設金網を張り崖面からの肌落ち落石を防止し、出入口周辺は目隠し塀及び目隠しシートで囲い防音、防塵に努める。」旨、作業時間としては、「始業時間を午前八時、終業時間を午後六時とし、日曜日は、原則として休業(軽作業は行う場合があること)する。」旨等が記載されていた。
被告パスコの近隣住民に対する右の説明会での説明に対し、近隣住民から工事に使用する道路の幅員、交通量、ダンプカーのトン数、台数等について質問が出され、第一回の説明会において本件道路の幅員について四メートル未満の部分があるとの指摘がされ、被告パスコでは昭和六三年一二月二一日にその調査をし、一部側溝部分を除外すれば、四メートル未満の箇所があること及び前記梅崎方横道路が特に狭くなっていることを確認した。その後、被告パスコと近隣住民との第三回目の話合いは平成元年六月一六日ころ行われたが、実質的な内容を伴うものではなかった。
なお、被告福岡市は、前記梅崎から取得していた土地について平成元年四月から道路拡幅の工事をし、同年六月初旬にその工事を完了した。
(七) 前記説明会の資料のとおり、当初の工事予定は開発区域北側の原告白川他七名の近隣居住地との境界を掘削し、そこに前記防災用の擁壁を設置し、その開発区域側に土砂の搬出路を設けて、そこから立木を搬出する予定となっていたが、被告パスコらは実際には搬出路を作る前に立木の伐採をした。
自然林の伐採は、第一回目は平成元年五月二一日ころ、第二回目は同年六月二一日に行われた。第一回目の伐採は古墳調査のためであり、頂上付近の立木五ないし六本が伐採されたにすぎず、結果的に古墳の調査ができなかったために土質調査、防災用の準備工事等も兼ねて第二回目の伐採で標高二二メートルより上の部分にある開発区域内の多くの立木の伐採がされた。
その後、搬出路が完成するまで開発区域内に伐木が積まれていたところ、同区域内で、平成元年七月一四日及び同月一九日、放火とみられる二回の火災が発生し、いずれも直ちに消火されたが、被告パスコ、同前田建設は、警察、消防、地元の人々らから火災の再発防止のために早急に伐木を搬出するよう求められた。同被告らは、崖状ではあるが、開発区域に隣接し、道路に達することのできる被告パスコ所有の四二八二番の一三の土地を使用してワイヤーロープで搬出する方法を採用し、同土地付近の笹やぶを切り開き、伐木を頂上の方から一本ずつワイヤーを使って降ろして搬出をした。右開発区域外の土地は、接続道路用地と隣り合ったところにあり、当初搬出を予定していた搬出路から東へ約三〇メートル位の位置にあり、結果的に搬出路は原告道原ら宅等からも同程度離れることになった。なお、伐木搬出後も搬入道路北側の原告白川らとの騒音問題の解決ができていなかったために、その後の工事用機材等の搬入、土砂の搬出等に利用された。
埋蔵文化財発掘調査は、平成元年七月三日から同月二九日まで行われ、現状保存には当たらず、記録保存に止めるとされ、同月三一日の現地説明会の後に一般公開され、前記のとおり同年九月一六日調査終了届の通知が福岡県教育委員会教育長宛に提出された。
(八) 被告前田建設は、平成元年八月二三日ころ、着工が遅れていた搬出用道路の工事にとりかかった。ブレーカーを使用して原告道原宅裏山を削り始めたが、道路幅が狭いこともあり、工事は一日を要せず、翌日の二四日には防音シートが設置され、さらに、同年九月七日ころ、崖面に防災用の金網を張る工事がされた。被告前田建設は、平成元年九月ころから土砂の切り取り、搬出工事を行い始め、このころから工事用車輌も増加するようになったため、高層ビルの建築に反対の立場であった原告ら近隣住民は、騒音が激しいとの苦情を申し立てるようになり、同月二六日ころ、被告福岡市に対し、騒音の測定をするように求めた。
被告前田建設は、当初の予定に沿っておおむね始業時間は午前八時、終業時間は午後六時とし、日曜日を除いて工事をした。工事の方法も、切土に際しては、頂上から下ヘブルトーザーで土を降ろす方法を取っており、当初説明会で資料により説明された方法と異なった方法が取られたが、これは近隣住民の反対もあり、接続道路の建設に着手する時期が遅れ、結果的に伐採が先行したことなどによるものであった。工事に使用する機械は、当初、作業効率をあげるため大型の機械であるブルトーザー四二トン車、ダンプカー一一トン車等が予定されていたが、近隣住民から騒音等についての苦情が出されたため、実際に使用されたのはブルトーザー二八トン車、ダンプカー四トン車等のやや小型の建設機械等であった。
被告前田建設が平成元年一一月三〇日付けで本件開発区域近隣住民に配付した「シティパル愛宕建設工事のうち用地造成工事施行計画概要」と題する書面(甲第三号証)には、落石防止対策及び防音対策として、「民家近隣地域の境界部には、単管パイプ組立に防音シートを張りを設置します。また、重力擁壁の上には、H鋼を建て込み軽量鋼矢板を重ね土留壁を構築して落石防護柵とします。さらにH鋼に単管パイプを取付け防音シート張りとして騒音を低減させます。」との、擁壁工事については、「隣接住宅の安全を考慮し、当初はコンクリート擁壁を計画し、地元に説明していたが、隣接者の要望があったため、コンクリート擁壁に客土吹き付けの緑化を検討する。」旨の、騒音・振動についてとして「騒音、振動を伴う作業については、騒音規制法並びに公害防止条例を遵守すると共に以下の工法により工事騒音・振動の抑制に努力致します。中硬岩については、大型ブレーカー及びブルトーザーによるリッピングで行います。北側の崖面の掘削並びに隣接地の擁壁の床付け掘削時につきまして大変ご迷惑とは存じますが、よろしくお願い申し上げます。」との記載がある。
(九) 被告前田建設は、平成元年一一月以降、近隣住民からの騒音等に対する苦情を考慮し、工事現場の中心を山頂付近に移して工事をすることが多くなった。また、土砂の搬出は前記のとおり伐木搬出用の搬路を使用してされた。
原告道原、同坂口の夫、同白川の夫ら他四名は、当庁に対し、平成元年一二月二一日、開発工事について、「日曜日、祭日(国民の休日)、土曜日の午前九時以前と午後〇時以降、月曜日から金曜日までの午前九時以前と午後五時以降の工事をしてはならない。」旨の休日・夜間等の工事停止仮処分を申請し、原告ら及び被告パスコ、同前田建設は、同申請事件の疎明資料として、開発工事に際して発生する騒音の測定をした。右仮処分申請事件の審尋は、平成二年三月ころまで続けられたが、右原告道原らは同申請事件を取り下げ、その後、同年四月二七日、本件原告らは本件訴訟を提起した。
(一〇) 被告前田建設は、平成二年三月ころから開発区域内の岩等を砕く工事を始めたが、そのころから近隣住民から被告福岡市に対し、さく岩機の騒音等についての苦情の申立て、その測定等の要望がされるようになったため、防音シートの設置のほか、粉塵対策としてブレーカーを使用する際に作業員を配置し、散水による防塵に努めたが、騒音、粉塵の発生は避けられないところであった。また、工事時間が午後六時を過ぎることもあり、原告らはそのつど、現場担当者に事実関係の確認等を求めるなどした。
開発工事に伴う土砂の搬出、土入れ等の工事は同年一〇月末ころ終了し、その後は、工事に伴う騒音等の発生も殆ど無くなった。
被告前田建設では、前記のとおり、土砂搬出路として使用した進入路南側の四二八二番一三の土地について植生ブロック等で復旧の工事をした。
以上の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右1で認定の事実をもとに、まず本件許可処分の瑕疵、違法性の有無と程度について順次検討する。
(一) 被接続道路について
原告らは、本件許可処分は法三三条一項二号に反するなどの主張をし、本件道路に四メートル未満の部分があるのに許可処分がされたことは前記1、(四)、(五)認定のとおりであり、法三三条二項の規定を受け、同法施行令二五条四号は、「開発区域の主要な道路は、開発区域外の幅員九メートル(主として住宅建築の用に供する目的で行う開発行為にあっては、六・五メートル)以上の道路(開発行為の周辺の道路状況によりやむを得ないと認められるときは、車輌の通行に支障がない道路)に接続していること」と定めており、同号の規定を受けた被告福岡市の指導要綱(〔証拠略〕)第二四は「開発行為に伴う主要な道路の幅員は、開発行為の目的・規模に応じ次表の数値以上とする。(以下略)」旨を定め、その次表では、開発区域の規模〇・一ヘクタール以上五ヘクタール未満、開発の目的が住居の用の場合の被接続道路は六・五メートル以上と規定しているのであるから、住宅用建物建築を目的とする本件開発区域の開発にあたっては、六・五メートル以上の道路に接続していることが原則とされているものと解されるところである。
しかしながら、もともと、右施行令二五条四号も周辺の道路状況によりやむを得ないと認められるときは、車両の通行に支障のない道路であれば、開発を許可するものとし、緩和される場合のあることを認めているのであり、図面(一)と証人江崎洋二郎の証言によれば、本件開発区域の周辺は既成市街地であり、開発区域には六・五メートル以上の被接続道路がないものの、開発区域から北側に二五〇メートル、南側に四五〇メートルのところには国道等の幹線道路があり、開発区域から本件道路を通って幹線道路に至ってもその区間は短く、その間に交差する道路も多く、本件道路の一部区間では大型車の通行規制がされていることが認められるのであるから、直ちに右原則を適用するのが相当ともいえないところである。さらに、指導要綱第二四も、その次表では、被接続道路について、「(2)開発区域の規模及び周辺道路の状況により、車輌の通行に支障がないときは、幅員四メートル以上の公道(側溝を除く)で、市長が特に認めたものとすることができる。(以下略)」として有効幅員を四メートルに緩和しており、前記四メートル未満の道路部分の拡幅のため、その用地部分が買取され、その後、被告福岡市は、同区間の道路拡幅工事を行い、平成元年六月同工事は完了したのであり(1、(五)、(六))、これらの経緯のほか、〔証拠略〕によれば、本件道路の側溝は有蓋であって通行に支障はないと認められること、さらに右道路の確保等は、均衡ある市街地の形成を目的とするものと解されるが、開発の許可にあたっては市街地開発の必要性等も考慮されるべきものであるところ、既に開発区域西側付近は住宅地として開発されていることなどを考慮すると、本件許可処分は、被告福岡市長に与えられた裁量の範囲内のものというべきである(なお、証人西ノ原隆、同佐藤賢治の各証言によれば、被告パスコの担当者らは、福岡市内の開発の場合の被接続道路は四メートルであり、本件開発においても拡幅等により規制条件を満たすこととなるとの認識であったことが認められるが、被告福岡市の前記四メートル未満の部分の拡幅工事が特に本件開発のためにされたと認めるべき証拠はない。)。
以上のとおりであるから、被接続道路についての原告らの主張は、採用することができない。
(二) 開発区域の面積について
原告らは、実際の開発面積は一ヘクタール以上であったのに、被告パスコは一部を故意に開発区域から除外したのであって、脱法意思が明確であり、被告福岡市もこれを容認したと主張し、確かに、当初は開発面積が一ヘクタール以上として事前審査願が提出され、被告福岡市の関係部局等による指導がされ、本件許可処分がされたことは、前記一、1ないし3、二、1、(一)ないし(五)のとおりであり、法三三条一項九号等は、一ヘクタールを超える規模の開発行為については、区域における植物の成育の確保を講じた設計がされるべきこと及び樹木の保存措置が講じられていることを求めているものである。
しかしながら、本申請までの間には、当初の計画と異なり、景勝台からの進入路が確保できず、開発区域東側の大蔵省所管の国有地も取得できなかったことなどの事情変更の経緯も存する上、法三三条一項九号は、現状変更としての開発行為を認めながらも、その設計において一定の緑を確保すべきことを義務付けたもので、現存の樹木等をそのままの形で残すことを義務付けたものではないと解され、証人江崎洋二郎、同西ノ原隆の各証言を検討しても、被告パスコ担当者らが特にこれらの規制を潜脱すべく、開発区域縮小のための作為をしたとの特段の事実も窺われないところである。
また、開発区域から除外されたと主張する土地についてみても、法四条一二項は「この法律において「開発行為」とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいう。」、同条一三項は「この法律において「開発区域」とは開発行為をする土地の区域をいう。」とそれぞれ規定しているところ、開発区域外とされている四二八二番の一三の土地は、1、(七)、(一〇)のとおり、切り取られた土砂の搬出路として使用されたことはあるものの、同被告が開発行為を予定していたものではなく、現に復旧工事もされているのであり、右条項にいう開発区域であったとは認められず、〔証拠略〕により認められる開発区域南西側の樹木等が伐採された地域も同様に開発行為がされるものではないから、開発区域に含めることはできないものである。
以上のとおりであって、開発区域の縮小は、被告パスコにおいて法の規制を免れるためにしたとは認め難く、また、開発区域を一ヘクタール未満とするか否かは、被告パスコが選択すべきものであるから、被告福岡市長が法三三条一項九号の規制の点を除外して本件許可処分をしたとしても、これをもって違法であるとは評価することはできない。
したがって、この点の原告らの主張も採用することができない。
(三) 開発区域の選定について
原告らは、本件許可処分について指導要綱違反等を主張するところ、指導要綱第七が「開発区域の選定」について、史跡等を除外すべき旨を定めていることは原告ら主張のとおりであるが、一方、指導要綱第五二1項は、「開発予定区域については、遺跡・文化財等に関し、事前に十分調査し重要な文化財に関する土地、特に埋蔵文化財等の多い地域等ではできるだけ開発行為をさけるものとする。」、同2項は「文化財が存在する区域を開発をする場合は、開発行為の着手前に市の教育委員会及び文化財の所有者・占有者又は管理者と十分協議のうえ、調査・保存の方法等必要な事項について調整すること。」、同3項は「開発前又は開発工事中に遺跡等を発見した場合は、前項の調整を行なうとともに、できる限り公園緑地等として計画し、遺跡等の保護・保存に努めるものとする。」と定めているのであって、これらの規定に照らすと、開発行為の着手前に被告福岡市の教育委員会等と十分な協議がされれば、文化財等が存在する地域を開発することも可能であるということができる。これを本件についてみるに、埋蔵文化財の調査については、1、(七)のとおり、現状保存に該当しないとして終了しており、更に、〔証拠略〕によれば、被告福岡市の議会は、元年請願第三一号として愛宕山東部の文化遺産保護についての請願を受けていたので、同年九月一一日第一委員会において審査したが、発掘された古墳も不完全な形でしか残っておらず、古墳周囲にあった石仏も史跡とするほどのものではなく、保存をするとの結論には至らなかったことが認められるから、右史跡等は現場保存の価値のあるものではなく、記録保存にとどめる程度のものであり、その手続についても被告福岡市教育委員会と被告パスコらとの間で、指導要綱第五二2項に基づく協議がされてこの結論となったものと推認するのが相当である。
以上のとおりであるから、被告パスコらの開発区域の選定、工事の進行等についての違法な点があるとは認め難く、この点の原告らの主張も理由がない。
(四) 居住環境が破壊されたとの点について
原告らは、居住環境の破壊とこれによる生命・身体等の安全性の侵害、道路交通の安全を享受する利益の侵害等を主張するが、本件開発行為によって具体的な生活上の権利の侵害が発生したと認めるに足りる証拠はない。
(五) 以上のとおりであって、本件開発行為の申請とその許可処分に際し、被告福岡市と同パスコ、さらには同前田建設が法の規制等を潜脱すべく、これをないがしろにしたとはいえず、また、これにより原告らに居住環境破壊等の損害が具体的に発生したとはいえないから、これらの点を理由とする同被告らに対する損害賠償の請求は失当というほかはない。
3 本件開発工事の騒音等が受忍限度を超えるか否かについて
(一) 被告パスコ、同前田建設の開発工事の期間中、同工事に伴う騒音、振動等があったことは、1、(八)ないし(一〇)のとおりである。一般に開発工事等に伴う若干の騒音、振動等の発生は不可避でる上、工事請負人である被告前田建設は、防音シートを設置し、使用する機械を小型に切り替えるなどの防止の手段を講じており、開発工事は完成により終了するもので、期間も限定されているのであるから、近隣者である原告らは通常の工事に伴うある程度の騒音等はこれを受忍する義務があるというべきである。
しかるに原告らは、被告パスコ、同前田建設のした工事は、通常の限度を超える違法なものであると主張するので、以下、この点について検討する。
(二) まず、騒音の程度について検討するに、原告ら及び被告パスコ、同前田建設は、前記仮処分申請事件の疎明資料として、開発工事に伴って発生する騒音の測定をしたものであるが、その測定結果は、〔証拠略〕によれば、次のとおりであったことが認められる。
(1) 原告らが平成二年三月一二日午前一〇時四〇分から同日午後四時五〇分までの間、原告道原宅南側物干場で測定した結果は、最大値八六ホン、最小値七〇ホンであり(右測定時、同道原宅物干台横の山を削る作業が行われていた。)、同日午後五時一〇分から同時二五分まで原告伊藤宅裏で測定した結果は、最大値七八ホン、最小値六〇ホンであった。
同月一三日午前一〇時一〇分から同日午後四時四五分までの間、原告道原宅南側物干場での測定した結果は、最大値八七ホン、最小値六〇ホンであり、同日午後五時一〇分から同日午後五時三〇分まで原告伊藤宅裏で測定した結果は、最大値八三ホン、最小値七〇ホンであった。
同月一七日午後〇時三八分から同時五七分までの間、原告道原宅物干台で測定した結果は最大値九四ホン、最小値八六ホンであった(右測定時、同原告宅物干台横の崖をバックホーンショベルで削るなどの作業が行われていた。)。
同月一九日午前一〇時五六分から同日午後二時四四分までの間、原告道原宅物干台で測定した結果は、最大値九八ホン、最小値八一ホンであり、同日午後二時四五分から午後三時四分まで原告今井宅裏庭で測定した結果は、最大値九五ホン、最小値九〇ホン、同日午後五時五分から一四分まで同所で測定した結果は、最大値八八ホン、最小値八二ホンであった。
同月二〇日午前一〇時二五分から同時三四分まで原告道原宅物干台で測定した結果は、最大値九一ホン、最小値八一ホン、同時五〇分から午後〇時五四分までの間、原告伊藤宅で測定した結果は、最大値九一ホン、最小値八二ホンであった。
(2) 一方、被告前田建設が平成二年三月一七日午前一〇時二〇分から同日一〇時二四分までの間、原告道原宅前で五〇回にわたり測定した結果によると、最大値八一ホン、最小値六八ホン、平均値七四・一四ホンであった(前記のとおり、当日は、原告道原宅南側でバックホーンショベルが稼働していたが、測定地から音源であるバックホーンショベルまでは二〇メートル離れていた。)。
また、被告前田建設が同月一九日午前一一時四五分から同時四九分までの間、音源である道原宅裏のバックホーンショベルの騒音から五〇メートル離れた訴外家政学園前で五〇回にわたり測定した結果によると、最大値五二ホン、最小値四五ホン、平均値四八・六四ホンであり、同日午前一一時一五分から同時一九分までの間、音源である道原宅裏のバックホーンショベルから三〇メートル離れた被告パスコ作業所事務所で五〇回にわたり測定した結果によると、最大値七一ホン、最小値五六ホン、平均値六〇・四ホンであった。
(3) また、被告前田建設は、株式会社スリーエヌ技術コンサルタントに依頼し、平成二年二月一日午前八時から同日午後六時まで、本件開発区域及びその周辺で建設機械(ショベルカー、ブルトーサー)とさく岩機(ブレーカー)の二つの音源について騒音及び振動を測定したが、その結果は、以下のとおりであった(測定地点は、別紙五図面(三)のとおり、音源(NO・1、8)並びに原告坂本宅(NO・3)、同今井宅(NO・5)、同道原宅前(NO・7)及びそれぞれの家の防音シートを隔てた場所である。)。
イ ショベルカーの音源からの騒音測定結果について
原告坂本宅前では最大値七四ホン、最小値六八ホン、平均値七二ホン同今井宅前では最大値六八ホン最小殖六二ホン、平均値六六ホン、同道原宅前では最大値六二ホン、最小値五四ホン、平均値五八ホンであった。
右原告ら宅前の防音シート前の測定値は、原告坂本宅前で最大値八一ホン、最小値七七ホン、平均値七九ホン、同今井宅前で最大値七九ホン最小値七二ホン、平均値七七ホン、同道原宅前では最大値八二ホン、最小値六九ホン、平均値七六ホンであった。防音シートの効果は、原告坂本宅前で七ホン減、同今井宅前で一一ホン減、同道原宅前で一八ホン減であった。
ロ ブレーカーの音源からの騒音測定結果について
ブレーカーの音源(NO・8)の平均値は一〇二ホン、防音シート一枚を設置した地点での平均値は八四ホン、防音シート二枚を設置した場合は平均値七九ホンであった。防音シートの効果は、一枚のとき一五ホン、二枚のとき二一ホンであった。
ハ 敷地境界線におけるさく岩機(ブレーカー)の騒音について
原告坂本宅(NO・3)の敷地境界線では平均七三ホン、同今井宅(NO・5)の敷地境界線では六六ホン、同道原宅前(NO・7)の敷地境界線では五七ホンであった。
ニ 振動測定結果について
原告道原宅前(NO・5)の振動測定結果では、L一〇のとき三一デシベル、L五〇のとき二七デシベル、L九〇のとき二四デシベルであった。
なお、被告前田建設は、平成元年九月二八日にも本件開発区域北側でブレーカー作業中の振動を計測しているが、いずれも七五デシベル以下であった。
(三) 右(二)の各事実に基づいて検討するに、昭和四六年五月二五日閣議決定された「騒音にかかる環境基準」(丁第四号証により認める。)によれば、原告居宅地域と同様の道路に面する地域以外の地域であって、主として住居の用に供される地域である「A地域」においては、昼間は五〇ホン以下、朝夕は四五ホン以下、夜間は四〇ホン以下とされている上、騒音の影響として人間は、四〇ホン以下であれば気にならず、五〇ホンでやや騒がしい、六〇ホンでかなり騒がしい、七〇ホンで非常に騒がしい感じを受けるとされていることが認められるところ、開発工事は、実質的には平成元年六月ころから平成二年一〇月末ころまでの間、日曜日を除き、午前八時ころから午後六時ころまで行われたもので、原告らの騒音測定の結果では、前記のとおり高い数値を示しており、工事の方法も自然林を伐採し、山を切り崩し、岩盤を砕くなどして標高約二〇メートルの場所に高層建物建築用地を造成するというものであり、開発区域の北側崖下には、原告ら宅が密集し、本件開発工事も原告道原、同白川、同坂口ら宅の直近で行われ、被告前田建設が株式会社スリーエヌ技術コンサルタントに依頼して測定した騒音測定結果によっても、原告ら宅の平均値は、人間が受ける感覚とすれば、かなり騒がしいというものであり、原告らの被害状況一覧表(甲第二〇号証の二、原告らが仮処分申請事件において提出したもの)中には、騒音により安静を保つことができなかった旨の記載が多くみられるのも成程と思わせるものがあり、少なくとも工事現場近くの原告らは、工事期間中、右環境基準の基準値を上回る騒音被害を受けたこともあると認めるのが相当である。
しかしながら、丁第一一号証によれば、通常騒音測定器の周波数補正回路はA特性によるべきものとされているが、これらの回路の選択によっては結果に差が出ることが認められるところ、原告らの測定がどの回路を使用したかは必ずしも明らかではない上、福岡県騒音防止条例(甲第四三号証)第二条、第三条、第九条は、「騒音とは、著しく周辺の静穏を害するもの並びに第四条から第六条までに規定する音量の基準を超えるもの」とし、一般的な音量機器音については、本件と同様の住居地域について午前八時から午後七時までで六〇ホンとしているが、本件騒音は、特定建設作業に伴って発生する騒音として別に規制されるところ、その規制値は、敷地境界線において七五デシベル以下(丁第九号証)であり、被告前田建設の測定結果では、(二)、(2)、(3)のとおり、規制値以下であるから、附近居住原告らの受忍の限度を超えるものであったとは断じ難いものがある。
また、被告パスコらの本件開発工事の経過等をみても、原告ら居宅のうち、特に騒音等の影響を受けた同道原、同白川同坂口宅は、本件開発地北側の二〇メートル下に隣接しており、本件開発行為は右隣接地を接続道路とする計画であり、同道路の開設のためには、開発地の崖部分を含めて擁壁等の補強工事が必要であり、そのためには、右原告ら宅の隣接地を工事する必要性があり、作業自体はやむを得なかったということができる。
さらに、1、(七)ないし(一〇)のとおり、被告前田建設の作業時間は午前八時から午後六時までで日躍日を除くというものであり、ことさら深夜等に及ぶものではなく、工事方法も騒音低下のために工事場所を山頂の方へ移動したり、右原告ら宅から東へ約三〇メートル移動した開発工事区域外の土地を使用したり、また工事に使用する車輌も当初の大型のものから小型のものに切り替え、防音シートを設置するなどしているのであって、この間、高層マンション建築に反対する原告らからの苦情や抗議等がされ、被告パスコ、同前田建設は、1、(六)、(八)のとおり、作業方法等を明確にして防止措置等を確約していたのであるから、同被告らは一応これらの確約等に副って工事を進めたと推認することができる。
以上のほか、原告らの経過表(〔証拠略〕)を検討しても、騒音の発生とこれに対する苦情は、工事の進捗状況や作業方法等によって差があり、平成元年九月と平成二年三月から七月ころまでがピークであること及び丁第一〇号証によれば、株式会社スリーエヌ技術コンサルタントが平成二年一月に測定した結果では、浮遊粒子状物質の一時間値の一日平均値は環境基準を満たすものであり、降下ばい塵については、本件開発区域南側の集会所では福岡市内の降下ばい塵測定結果よりはやや高い値であったが、北側の訴外牟田宅では福岡市内の降下ばい塵測定結果と比べても高い値ではなかったことが認められ、これらの点も総合すると、被告前田建設のした開発工事は、相当の注意を払い、可能な限りの防止の措置のもとにされたということができる。
前記原告らの被害一覧表中には、原告やその家族らは粉塵のために工事中は窓を開けることができず、洗濯物を干すことができなかった旨の記載があり、原告緒方初代もこれに副う供述をし、開発区域北側が崖面等であったことを考慮すると、これらの不便を余儀なくされたことは容易に推認されるが、本件各証拠を総合しても、なお本件開発工事が原告らの受忍限度を超えるものであったとは認めることができない。
(四) 従って、原告らの騒音被害等を理由とする損害賠償の請求も理由がない。
4 以上のとおりであって、他に原告らがるる主張する点についても、もっぱら開発区域に高層マンションが建築されることによる被害を主張しているのであって、原告らに受忍限度を超える違法な損害が発生したと認めるに足りる証拠はないから、原告らの損害賠償の各請求は理由がない。
第五 結論
よって、原告らの被告福岡市長に対する本件開発許可処分の取消し及び被告パスコ、同前田建設に対する本件開発工事差止請求の訴えは、いずれもこれを却下し、被告福岡市、同パスコ、同前田建設に対する損害賠償の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧弘二 裁判官 高橋譲 長谷川浩二)
別紙二
土地目録
一、所在 福岡市西区愛宕三丁目
地番 四二七八番四
地目 山林
地積 二一五六平方メートル
二、所在 右同所
地番 四二八三番七
地目 山林
地積 二五五二平方メートル
三、所在 福岡市西区愛宕四丁目
地番 四二八〇番七四
地目 宅地
地積 六二・五四平方メートル
四、所在 右同所
地番 四二八〇番七五
地目 宅地
地積 四八・五九平方メートル
五、所在 右同所
地番 四二八〇番八七
地目 宅地
地積 三二六・七六平方メートル
六、所在 右同所
地番 四二八〇番八九
地目 宅地
地積 二・七四平方メートル
七、所在 右同所
地番 四二八〇番八四
地目 宅地
地積 九四・五四平方メートル
八、所在 右同所
地番 四二八二番一
地目 山林
地積 五五九三平方メートル
九、所在 右同所
地番 四二八二番一三
地目 雑種地
地積 四二六平方メートル
一〇、所在 右同所
地番 四二八二番一四
地目 宅地
地積 二九九・七八平方メートル
一一、所在 右同所
地番 四二八二番一九
地目 雑種地
地積 五八平方メートル